西洋アンティーク 歴史と芸術のマリアージュ  | 銀座

紋章とイニシャル〜刻まれた証し〜

アンティークのものをみていると、紋章やイニシャルが刻まれたものを多々みかけることがあります。日本でも古くは家紋が装飾されたものが多くありました。イニシャルや紋章は注文品などさまざまなものに装飾されています。それはなぜ付けられ、どのような意味があったのでしょうか。 


イニシャルを刻む

アンティークの食器などにはよくイニシャルが刻まれているものがあります。当然、注文主のイニシャルが刻まれています。それは当時、いかにその人にとって大切なものであったかの証しでもあります。ガラスや陶磁器にしろ、銀器にしろまず最初は王族、貴族と高貴な身分のものが手にし始め、次第にブルジョワジーや市民へと浸透していきました。そういった高級品を自分のものにすることは財産としてでもあり、ステータスでもあります。受け継がれてきたものや、大切にされていたものはイニシャルが複数刻まれているものもあります。アンティークの購入の面からいうと、毛嫌いするコレクターも少なくはないと思います。しかし、そういった注文した当時に思いを馳せるのも面白いかもしれません。自分と同じイニシャルだとなお楽しさが増します。


ジョージアンのイニシャル 英国ジョージアンの銀器に刻まれたイニシャル

紋章を刻む

アンティークの中には紋章が描かれているものもたまに見かけます。これにはいろいろ種類があります。まず、先に説明したように、もともと高級ガラス、銀器、磁器などは王族、貴族ぐらいしか所持できませんでした(紋章自体は一般市民でも持っています)。そして注文され、その家の紋章が刻まれました。古いものほど紋章の刻まれたものが多くあります。また、紋章といってもそれ以外にもいろいろとあります。

・注文品としてその家の紋章がつけられる(特に古いものに多い)。

・王族や公的機関などから贈答品として紋章が付けられる。

・ジュビリーなど記念品などに王族の紋章が付けれられる。

・企業や団体の紋章が製品などに付けられる。

・都市のお土産品などにその都市の紋章がつけられる。

・単なるデザインとしての紋章(過去の王の紋章など)。

など様々な場面で使用はされているが、やはり王族、貴族からの注文品として紋章が付けられたものは価値が高く、海外では特に高値で取引されており、歴史的美術的価値も高いです。

紋章の入った製品は世界的にもコクレターが多く、紋章が入っていないものに比べると高い価値があります。


クレスト 英国銀器に刻まれたクレストという紋章の一部。

王冠の入れ方

王冠のみや王冠+モノグラムもよくございます。これは注文により刻まれるものですが、これが非常に意義のあるもので、その品物のアイデンティティを探る手掛かりとなります。王冠は基本的には貴族に付けられるものですが、品物に彫られるかどうかはまた別の話です。国や時代、注文方法によって異なります。また王冠にも種類があります。

王冠のカタログ

これはフランスの銀器メーカーの19世紀末のカタログより抜粋したものです。これらのモノグラムや王冠はオプションで別途料金を支払って彫られました。フランスの場合、通常モノグラムのみ、王冠のみ、王冠+モノグラムというものがほとんどです。上手のものだと紋章まるごと彫られることもあります。今回注目するのは王冠の種類です。中央に5個あり、左上が「Baron」(男爵)、右上が「Comte」(伯爵)、中央が「Marquis」(侯爵)、左下が「Vicomte」(子爵)、右下が「Duc」(公爵)となっています。爵位としては上から公爵、侯爵、伯爵、子爵、男爵の順となります。この王冠を紐解くにはまず、実物の王冠のデザインを知る必要があります。

【実物の冠のデザイン】※国によって異なります。

・公爵冠…8枚の苺の葉

・侯爵冠…苺の葉と銀色の丸飾りが交互に計8つ

・伯爵冠…8枚の苺の葉と8個の丸飾りが交互に計16つ

・子爵冠…18個の丸飾り

・男爵冠…6個の丸飾り

これをアンティークの銀器やガラス、陶磁器など平面状のものにデザインすると、

・公爵冠…5枚の苺の葉

・侯爵冠…3枚の苺の葉の間に丸飾り2個

・伯爵冠…9個の丸飾り

・子爵冠…3つの丸飾りの間に小さい葉が2個

・男爵冠…4つの丸飾り

葉はデザインされ、宝石や他のものに置き換わることが多いですが上記のようになります(全てではありません)。

イギリスの注文例

モノグラム、王冠、紋章。いろいろと入れ方はありますが、実際にイギリスのメーカー側からみた例がこちら。

イギリスのカタログ

これはイギリスの1900年初頭の銀器のカタログより抜粋したものです。イギリスの場合は一般的にクレストをデザインすることが多いので、フランスやドイツ系ほど王冠のものはありませんが、ときどきやはり王冠を用いたものもでてきます。公的なものには正式な紋章、私的なものにはモノグラムが用いられる傾向にあります。


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