FRENCH SILVER HALLMARKS

フランス銀製品の刻印

1798年以後のフランス銀器に見られる品位印・保証印・輸入印・輸出印・製造者印を、年代順に整理します。とくに1909年刊 A. Conche, Les Poinçons Français は、当時の保証制度を刻印図とともに説明しているため、本ページでは同書の図版をできるだけ直接使用し、本文も日本語で詳しく要約・翻訳しています。

重要:1909年資料の説明は「1909年当時の制度」です。現行制度とは一致しない部分があります。本ページでは、歴史資料の説明と現在のフランス税関の制度を分けて記載しています。

パリと地方(Départements)を区別して読む

フランスの銀刻印は、年代だけでなくどの保証局で検査・打刻されたかも重要です。とくに1798年から1838年までは、パリと地方で品位印そのものの形、人物・動物の向き、数字の位置などが異なります。

1798–1838年

パリ用と地方用で品位印の図柄構成が異なる時代です。雄鶏や人物頭部だけを見て判断せず、枠形、向き、数字「1」「2」の位置まで確認します。

1838年以降

1909年資料では、ミネルヴァの品位印はパリと地方で基本形を共通とします。一方、小保証印は明確に分かれ、パリ=猪頭、地方=蟹です。また地方の保証局で打たれた刻印には、保証局を識別する différent(識別記号)が重要になる場合があります。

用語:当時の資料にある Départements は、本ページでは便宜上「地方」と訳します。ここでは単なる製造地ではなく、原則としてパリ以外の保証局による検査・打刻区分を指すものとして読んでください。
17981809

第一の雄鶏 ― Premier Coq

1798年6月19日から1809年8月31日まで用いられた初期の近代フランス品位印。この時期はパリと地方(Départements)で刻印の構成が異なります。第1品位950‰・第2品位800‰のいずれも雄鶏を主題としますが、数字「1」「2」の位置が識別点です。パリでは数字が右側、地方では左側に置かれる型が用いられます。

第1品位 950‰第2品位 800‰意匠 雄鶏
1798–1809年 第一の雄鶏刻印
1798–1809年の第一の雄鶏刻印。画像は原寸を超えて拡大しません。
18091819
1809–1819年 第二の雄鶏刻印
1809–1819年の第二の雄鶏刻印。画像は原寸を超えて拡大しません。

第二の雄鶏 ― Deuxième Coq

1809年9月1日から1819年8月16日まで。雄鶏の意匠は続きますが、枠形・横長/縦長の違い・数字の位置などが変化します。この時期もパリと地方で型が分かれます。パリの第1品位950‰は横長の輪郭をもつ雄鶏、第2品位800‰は数字「2」を伴う型です。地方では縦長の輪郭となり、第1品位は雄鶏頭部の左側に「1」、第2品位は左下に「2」が置かれる型が識別点になります。

第1品位 950‰第2品位 800‰識別 枠形・数字位置
18191838

人物頭部による品位印

1819年8月16日から1838年5月9日まで。雄鶏から人物頭部へ変更されます。この時期もパリと地方で刻印が明確に分かれ、第1・第2品位で人物の向きと数字位置が変わります。パリ第1品位950‰は右向きで顔の右側に「1」、パリ第2品位800‰は左向きで左下に「2」。地方第1品位950‰は左向きで左側中ほどに「1」、地方第2品位800‰は地方用の別型で示されます。顔だけでなく、枠・向き・数字の位置を一体で確認する必要があります。

1819–1838年 パリの品位印
1819–1838年のパリ用品位印。画像は原寸を超えて拡大しません。
1819–1838年 地方の品位印
1819–1838年の地方用品位印。画像は原寸を超えて拡大しません。

小保証印 ― 猪頭と蟹

1909年資料の猪頭と蟹の小保証印
原資料 p.14。Paris=猪頭、Départements=蟹。

1909年資料の和訳

「小保証印(Poinçons de petite garantie)。パリは猪頭、地方(Départements)は蟹。」

これらはフランス製の小型作品で、試金石(toucheau)による検査を受けたものに打刻され、法定最低品位だけを保証すると説明されています。

したがって、1909年資料における猪・蟹は単に「銀800‰の印」とだけ理解するより、小型作品に対する簡略な保証方式という制度上の意味を押さえる方が正確です。

出典:同書 p.14。

輸入品に関する刻印

1909年資料では輸入品を一律に同じ刻印で扱っていません。条約国か非条約国か、時計か否か、さらに中古品・競売品かによって印が分かれています。

輸入品用のCharançon刻印
原資料 p.14。大小2種。

Charançon ― 条約国由来の輸入品

「長方形の中に入り、作品の大きさに応じて大小2種がある。」

フランスとの条約により、フランス製同種品と同じ制度で扱われる国から輸入された品に打刻する、と説明されています。再輸出時には、輸入時に徴収された保証税の払い戻しを受けられるとも記されています。

白鳥 Cygne の輸入印
原資料 p.15。

白鳥 ― Cygne

楕円内の白鳥。フランスと条約を結んでいない国からの輸入品、ならびに外国製時計に用いると説明されています。

さらに1909年資料では、白鳥はフランス起源を示す古い保証印を持たない中古品や公売由来品にも用いるとしています。

梟 Hibou の輸入印
原資料 p.11。ここは金を含む輸入制度説明の箇所。

梟 ― Hibou

1909年資料では楕円内の梟を、非条約国からの輸入品と外国製時計に用いる印として説明しています。銀の白鳥と並べて理解すると、当時の輸入保証制度が金属・品種別に分かれていたことが分かります。

出典:同書 p.10–11, p.14–15。1909年当時の条約関係を記述した歴史資料であり、現在の輸入制度を示すものではありません。

輸出用刻印 ― メルクリウス

銀の輸出用品位印(1909年資料)

第1品位 950‰:六角形で囲まれたメルクリウス頭部。品位数字「1」は顎の下。

第2品位 800‰:上下を切った楕円形の枠。数字「2」は顎の下。

これらはフランスで法定品位に製造され、保証税について信用供与または払い戻しを受けたうえで輸出された作品に用いた、と記されています。

小保証・輸出用

正楕円内のメルクリウス頭部は、試金石で検査された小型作品に用い、「法定最低品位(800‰)のみを保証する」と説明されています。

1909年資料の銀輸出用メルクリウス刻印
原資料 p.15。950‰と800‰。
小型輸出銀製品用メルクリウス刻印
原資料 p.16。

出典:同書 p.15–16。

返送・再検印・旧制度を示す補助印

Tête de lièvre 返送印
原資料 p.19。

兎/野兎頭 ― Poinçon de retour

八角形内の野兎頭。1909年資料は、保証税免除で輸出されたフランス製品が、税を納めて再輸入された場合に打刻すると説明します。また、輸出印であるメルクリウスを持つ品を国内販売へ回す場合にも適用されるとしています。

Girafe と Dogue の再検印
原資料 p.18。

Recense ― 再検印

キリン頭=大型品、犬頭=小型品。資料によれば、再検査・再登録の際に無償で打刻され、1888年以前の旧い刻印を持つ品を新制度上で正規化するための印でした。

ET 刻印 Paris / Départements
原資料 p.18。

ET

資料はETを「法定品位を保証しない旧外国印」と説明し、非条約国由来の時計以外の品、低品位の古物、公売品などに関係する印として記載しています。図版ではParis と Départements が別型で示され、長方形の輪郭が異なります。

Chimère 旧輸入印
原資料 p.16。

Chimère ― 旧輸入印

1893年6月29日の政令で廃止。資料では、以前は外国製時計に使用され、1909年当時は白鳥によって置き換えられていたと説明しています。旧印が正規に打たれた品は、そのこと自体で不正品とはみなされないと明記されています。

Bigorne ― 裏側に残るカウンターマーク

1909年資料 p.20 の要旨

Bigorne は、小・中・大の3種がある検査用の金床です。作品の大きさに応じてその上へ置き、表側から保証印を打つと、金床表面に彫られた多数の昆虫模様が反対側へ同時に転写されます。

資料は、この裏側のカウンターマークについて、刻まれた図柄の種類が多いため模倣が非常に困難で、法定刻印の安全性を高める偽造防止要素であると説明しています。

したがって「Bigorne」という特定の虫の名称ではなく、刻印を受ける金床そのものの名称であり、その表面に複数の昆虫等の図柄が刻まれている、という理解がPDF本文に忠実です。

製造者印 ― Poinçon de maître / de fabricant

1909年資料の製造者印と関連刻印
原資料 p.20–21。菱形の製造者印、一般金属、Doublé等。

1909年資料の和訳

菱形の印:製造者のシンボルとイニシャルを中に入れ、法定品位の金・銀製品に用いる。

正方形:卑金属に金・銀の表面処理を施した品。

角を丸めた正方形に「DOUBLÉ」:金または銀の張り・被覆品。

正方形の上に正三角形:輸出専用に作られた低品位品。製造者の記号・イニシャルに加え、品位を千分率またはカラットで示す。

銀器の製作者を特定するとき、ミネルヴァは「誰が作ったか」を示す印ではありません。菱形の製造者印のイニシャルと中央シンボルを読むことが製作者同定の中心になります。

出典:同書 p.20–21。

金と銀を併用した作品

1905年12月10日の政令により、フランス製で金と銀を組み合わせ、副次的な貴金属が総重量の3%を超える作品には新しい小保証印が設けられたと資料は説明します。

図は楕円内に鷲頭と猪頭を並置したもの。中央の空白は保証局を表す識別記号(différent)のために確保されます。1909年資料では、パリを除く保証局の刻印には、この différent によってどの地方保証局で打刻されたかを示す仕組みが説明されています。副次金属が3%を超えない場合は、主金属に対応する刻印だけを用いるとされています。

金銀混合作品用の鷲頭と猪頭の刻印
原資料 p.17。
現行制度

現在のフランス銀刻印を読む

ここからは1909年資料ではなく、フランス税関の現行案内に基づく説明です。現行制度では、銀製品が「argent」として流通するための最低品位は800‰。また、保証印とは別に、製造者は菱形のpoinçon de maître、輸入者は楕円形のpoinçon de responsabilitéを用います。

区分現行表での銀品位意味
新品・高品位999‰独立した品位保証印
新品925‰ミネルヴァ系の保証印
新品800‰ミネルヴァ系の保証印
中古・外国または由来不確実状況により異なる白鳥やETなど、通常の新品品位印とは別系統の印

現行フランス税関案内では、銀製品は30g未満の場合、一定条件下で国家保証印の打刻が免除されます。したがって「刻印がない=銀ではない」とは断定できません。

現行制度:Direction générale des douanes et droits indirects, “Règles de marque pour la garantie des métaux précieux” および “Garantie des métaux précieux en France”。制度は更新されるため、法的判断・輸出入実務では最新の公的資料を確認してください。

資料について

Les Poinçons Français 表紙
添付PDFの表紙。第2版。

A. Conche, Les Poinçons Français

1909年5月9日付の序文を持つ第2版。保証制度、品位、検査、小保証印、輸出入印、再検印、製造者印などを図入りで説明しています。本ページの1909年制度部分の図版は、著作権の切れたこのPDFから原寸に近い解像度で再抽出しました。

画像表示について:1798–1838年の図版は原画像の解像度を超えて引き伸ばさず、小さめの表示幅に固定しています。PDF由来の図版は元スキャンから高解像度で切り出し、画面では縮小表示するため細部を確認しやすくしています。

現行公的資料

フランス税関:Règles de marque pour la garantie des métaux précieux
Garantie des métaux précieux en France

© 11th Avenue — French Silver Hallmark Reference