紀元前1世紀〜紀元後4世紀を中心に
地中海世界・ローマ帝国領

ローマ時代、ガラスは多彩な日用品になるとともに、熟練を凝らした贅沢品にもなりました。吹く、型に入れる、色ガラスを組み合わせる。異なる技法が並存したことに、ローマの工芸の豊かさがあります。

このページの内容

広い市場と職人の移動

ローマの工芸は、イタリアだけでなく、帝国に組み込まれた東地中海などの技術に支えられました。都市の成長と交易は、職人や製品が広い地域へ移る条件をつくります。ガラス器も、飲食の器、香油や化粧品の容器など、生活のさまざまな場面に入りました。

前1世紀の東地中海で発達した吹きガラスは、成形の速さと形の自由度を広げました。一方で、型にガラスを置いて成形する製法も残り、用途や求める効果に応じて使い分けられています。新技法が登場すれば古い技法がすぐ消える、という単純な交代ではありません。

参照:[1]

色ガラスそのものが文様になる

花綱文の椀は、透明、紫、黄、青のガラスを組み合わせた作品です。花綱は表面に絵具で描かれた模様ではなく、文様を仕込んだガラス棒の断面などを利用した装飾です。素材の色がそのまま図柄をつくっています。

美術館の解説では、各色のガラス片を型の中で合わせ、さらに花綱の装飾を加えたとされています。器の形だけでなく、加熱したときの素材の動きや、色どうしの境界を管理する技術が必要でした。小さな器に重ねられた工程の多さが見どころです。

参照:[2]

紫、黄、青、無色のガラスを組み合わせ、花綱文を加えた浅い椀
花綱文のガラス椀
紀元前1世紀後半|ローマ、アウグストゥス時代|ガラス、型による成形・切削

メトロポリタン美術館蔵|91.1.1402
Edward C. Moore Collection, Bequest of Edward C. Moore, 1891
作品情報・出典 / Public Domain・CC0

型吹きと、エンニオンの名

型吹きは、溶けたガラスを型の中で吹き、器の表面へ浮彫や文字を写す方法です。掲載の水差しはエンニオンの作品で、複数の部分からなる型を使っています。胴の縦線や文様帯、銘を、器の立体に沿って配置しています。

型は似た形や装飾を繰り返すために役立ちますが、口や把手の仕上げなどには職人の手仕事が残ります。型の存在を、現代の工業製品と同じ意味での完全な均一性と捉えることはできません。形を整える工程と、意匠を共有する仕組みの両方を見ると理解が深まります。

参照:[3]

縦の溝と文様帯、文字の浮彫を持つ把手付きのガラス水差し
エンニオンのガラス水差し
エンニオン|紀元後1世紀前半|ローマ帝国期|ガラス、複数部分の型による型吹き

メトロポリタン美術館蔵|17.194.226
Gift of J. Pierpont Morgan, 1917
作品情報・出典 / Public Domain・CC0

出土ガラスの表面を見る

古代ガラスには、埋蔵中の変質によって白濁や虹色の表面が生じたものがあります。現在の輝きが、制作時に意図された装飾とは限りません。透明度や色を評価するときは、技法とともに保存状態も確かめます。ローマの器は、作られた時代と、その後の長い時間の両方を映しています。

参照:[2] [3]

出典・参考資料

  1. Rosemarie Trentinella, Roman Glass(2003)
  2. The Met, Glass garland bowl (91.1.1402)
  3. The Met, Glass jug (17.194.226)

本文は上記の資料と作品情報を参照した解説です。作品名の日本語表記は説明用の訳です。年代・帰属の「頃」「恐らく」は所蔵館の記載に従います。図版は同館がPublic Domainとして公開する画像を使用しています。