11〜12世紀を中心に/一部1200年頃まで
西ヨーロッパ

教会に納められた銀の箱、書物を守る青いエナメル。ロマネスク期の装飾美術では、聖なるものを包み、示し、運ぶための工芸が重要な位置を占めます。建築と小さな器物は、同じ信仰の空間で結びついていました。

このページの内容

修道院、巡礼、聖なるもの

11〜12世紀の西ヨーロッパでは、修道院の活動や巡礼の拡大とともに教会建築が盛んになりました。礼拝の空間には、彫刻や壁画だけでなく、聖杯、聖遺物容器、書物、織物などが置かれ、それぞれが典礼を支えています。

ロマネスクという名称は後世の美術史上の分類です。古代ローマの形との関係を示す一方、北ヨーロッパやビザンティンの影響も含まれます。地域ごとの違いが大きく、同時期の工芸すべてに同じ形や文様が使われたわけではありません。

参照:[1]

聖遺物を納める箱

聖遺物容器は、聖人に関わる遺物を納めるための器です。掲載のドイツ製の箱型容器は12世紀の作品で、木の芯の上に金鍍金した銀、宝石、彫刻石などを組み合わせています。屋根のある建物を思わせる外形が、内容物を包む小さな建築のように見えます。

素材の価値と精巧な細工は、納められたものへの敬意を視覚化します。一点の作品でも複数の材料と技法から成り立つため、金工品、木工品、宝飾品という現代の分類だけでは収まりません。外形と構造、嵌め込まれた石を順に眺めると、制作の層が見えてきます。

参照:[3]

屋根状の蓋を持ち、金属装飾と石を配した箱型の聖遺物容器
箱型聖遺物容器(シャス)
12世紀|ドイツ|木芯、鍍金銀、宝石、インタリオ、カメオ

メトロポリタン美術館蔵|17.190.404
Gift of J. Pierpont Morgan, 1917
作品情報・出典 / Public Domain・CC0

リモージュのエナメル

フランスのリモージュは、中世のエナメル工芸の重要な生産地でした。シャンルヴェでは金属の表面に凹部をつくり、ガラス質の材料を入れて焼き付けます。金色の金属面と青などのエナメルの対比によって、人物や文様を鮮やかに示しました。

1200年頃の書物表紙用プレートでは、威厳あるキリストの姿が表されています。写本を覆う装具にも、本文の重要性を伝える役割がありました。作品の年代はロマネスクとゴシックが重なる時期にあたり、様式の境界が暦の上で一斉に切り替わらないことも示しています。

参照:[4] [2]

青いエナメルと金色の金属面でキリストを表した長方形のプレート
威厳あるキリストを表す書物表紙用プレート
1200年頃|フランス、リモージュ|鍍金銅、シャンルヴェ・エナメル

メトロポリタン美術館蔵|17.190.783
Gift of J. Pierpont Morgan, 1917
作品情報・出典 / Public Domain・CC0

残った作品と、失われた使われ方

現在は美術館で独立した作品として見られる装具も、もとは書物や儀礼の器の一部だった場合があります。失われた部分と現存する部分を区別し、どのように持たれ、開かれ、光を受けたのかを想像することで、工芸と身体の関係にも近づけます。

出典・参考資料

  1. Julien Chapuis, Romanesque Art(2002)
  2. The Met, Book-Cover Plaque with Christ in Majesty, 17.190.798
  3. The Met, Chasse (17.190.404)
  4. The Met, Book-Cover Plaque with Christ in Majesty (17.190.783)

本文は上記の資料と作品情報を参照した解説です。作品名の日本語表記は説明用の訳です。年代・帰属の「頃」「恐らく」は所蔵館の記載に従います。図版は同館がPublic Domainとして公開する画像を使用しています。