表紙図版:恋愛物語の場面を表す小箱 / The Metropolitan Museum of Art 出典 / Public Domain・CC0(表示範囲を調整)
12世紀半ば〜15世紀/地域により16世紀まで
フランスを起点とするヨーロッパ各地
光を透かす窓と、手に取って読む象牙の物語。ゴシック期の工芸は、教会の壮大な空間から、宮廷や邸宅の小さな持ち物まで広がります。大きさの違う作品をつなぐのは、細部にまで語りを行き渡らせる造形です。
このページの内容
大聖堂と、都市の工芸
12世紀半ばのフランスで展開したゴシック建築は、尖頭アーチやリブ・ヴォールトなどを組み合わせ、壁に大きな窓を開く空間を生み出しました。光を取り込む窓は、同時に色と物語を伝える場所になります。
一方で、同時期の工芸は教会だけのものではありません。象牙の小箱や鏡背、装身具などには、恋愛や騎士の物語も表されました。宗教的な造形と世俗的な造形が共存し、持ち主や使う場所に応じて異なる世界をつくります。
ステンドグラスが語る物語
サラゴサの聖ウィンケンティウスの伝説を表す窓は、1245〜47年頃の作品です。色ガラスと描画、鉛の桟を組み合わせ、複数の場面を積み重ねています。鉛の線は接合のための構造であると同時に、図柄の輪郭にもなります。
現在の窓は、もとより大きな一群の場面を組み合わせたものです。現状をそのまま中世当初の全構成と考えず、移動や再構成を経た作品として見ます。色が透過光で見える窓と、光を反射する金工や象牙では、鑑賞の条件そのものが異なります。
参照:[2]

1245〜47年頃|フランス|色ガラス、ガラス質絵具、鉛
現在の構成は、もとの大きな一群から組み合わされたもの。
メトロポリタン美術館蔵|24.167a-k
Gift of George D. Pratt, 1924
作品情報・出典 / Public Domain・CC0
象牙の箱に広がる宮廷文学
パリで作られた《恋愛物語の場面を表す小箱》には、アーサー王伝説などに由来する場面が彫られています。蓋の「愛の城」への攻撃では、騎士たちが薔薇を投げるという比喩的な表現が見られます。
箱の側面ごとに別の場面が展開するため、眺める向きを変えることが物語を読む行為になります。細かな人物像は装飾であるとともに、持ち主や周囲の人々が共有する物語の知識を呼び起こしたのでしょう。この作品には後に再発見された前面のパネルが含まれ、現在の姿に至る収集の歴史も残っています。
参照:[3]

1310〜30年頃|フランス、パリ|象牙
メトロポリタン美術館蔵|17.190.173a, b; 1988.16
Gift of J. Pierpont Morgan, 1917; The Cloisters Collection, 1988
作品情報・出典 / Public Domain・CC0
ルネサンスと重なる時間
ゴシックはルネサンスの到来によって、すべての地域から同時に消えたわけではありません。15〜16世紀にも、地域や工芸分野によって異なる造形が並存しました。新旧を優劣で分けるより、どのような注文や用途が、その姿を必要としたのかを考えると、移り変わりを具体的に捉えられます。
参照:[1]
出典・参考資料
- Julien Chapuis, Gothic Art(2002)
- The Met, Scenes from the Legend of Saint Vincent of Saragossa and the History of His Relics (24.167a-k)
- The Met, Box with Romance Scenes (17.190.173a, b; 1988.16)
本文は上記の資料と作品情報を参照した解説です。作品名の日本語表記は説明用の訳です。年代・帰属の「頃」「恐らく」は所蔵館の記載に従います。図版は同館がPublic Domainとして公開する画像を使用しています。