表紙図版:《豚の群れの中の放蕩息子》を描く皿 / The Metropolitan Museum of Art 出典 / Public Domain・CC0(表示範囲を調整)
14〜16世紀/図版は16世紀
イタリアを中心とするヨーロッパ
絵画のように物語を描いた皿と、白い糸が透き通るガラス。ルネサンスの装飾美術では、食卓や邸宅の品々にも、技巧と知識を味わう楽しみが広がります。古代への関心と、地中海を結ぶ技術の交流が、その背景にありました。
暮らしの品が、鑑賞の対象になる
イタリアのルネサンスでは、教会や宮廷の注文に加え、富裕な家庭の婚礼や邸宅の調度も工芸の重要な場になりました。家具、器、織物や装身具は、持ち主の身分や家族の結びつき、教養を表す品でもあります。
「古代の復興」という言葉だけでは、作品の成立を説明しきれません。中世から続く工房の技術や、イスラーム圏・イベリア半島との交流が、新たな造形を支えました。古代の題材と聖書の物語、紋章なども、用途に応じて選ばれています。
マヨリカ——白い釉薬を画面にする
マヨリカは、錫を含む白く不透明な釉薬を特徴とする陶器です。白い面に多彩な絵付けを施し、皿や鉢、水差し、薬壺などへ展開しました。磁器ではなく、土の素地と釉薬からなる陶器です。
器面を物語の場面で覆うイストリアートでは、神話、古代史、聖書などが題材になりました。掲載の1525年の皿は、マエストロ・ジョルジョ・アンドレオーリの工房の作とされ、《豚の群れの中の放蕩息子》を描いています。「工房作」を親方本人の単独制作と言い換えず、制作集団への帰属として受け取ります。

マエストロ・ジョルジョ・アンドレオーリの工房|1525年|イタリア|マヨリカ(錫釉陶器)
メトロポリタン美術館蔵|1975.1.1105
Robert Lehman Collection, 1975
作品情報・出典 / Public Domain・CC0
ヴェネツィアのガラスと白い糸
ヴェネツィアのガラスでは、透明な素地に不透明な白いガラスを組み込む装飾が発達しました。掲載のゴブレットは、白い糸をねじるように組み込んだヴェトロ・ア・レトルティの例です。器の曲面に沿った細い線が、見る角度によって重なり合います。
これはガラスの上に白い線を描いただけのものではありません。異なる色のガラスを組み込み、熱いうちに成形するため、文様と形を同時に扱う技術が必要です。薄い器の輪郭と糸の密度を見比べると、素材を制御する職人の仕事が見えてきます。
参照:[6]

16世紀後半|イタリア、ヴェネツィア|無鉛ガラス、吹き成形、ヴェトロ・ア・レトルティ
メトロポリタン美術館蔵|1975.1.1147
Robert Lehman Collection, 1975
作品情報・出典 / Public Domain・CC0
飾る、使う、見せる
マヨリカには食卓用の器だけでなく、飾り棚や薬局の棚で見せることを意識した品もありました。器の上から見る絵と、横から見る輪郭のどちらを重視するかは、用途と関わります。作品を見るときには、絵柄と技法に加えて、どこへ置かれ、誰の目に触れたのかを考えてみてください。
16世紀の後半には、さらに複雑な形や技巧を見せる工芸も展開します。次のバロック期でも、こうした技術と工房の蓄積が新しい表現の土台になります。時代の区切りを越えて、材料と技術がどう受け継がれるかをたどることができます。
参照:[3]
出典・参考資料
- Jessie McNab, Maiolica in the Renaissance(2002)
- The Met, Art and Love in the Italian Renaissance(2008)
- The Met, Renaissance Maiolica: Painted Pottery for Shelf and Table(2016–17展覧会)
- 関連記事:11th Avenue, Renaissance – ルネサンス –(既存記事)
- The Met, Plate (piatto): The Prodigal Son among the swine (1975.1.1105)
- The Met, Goblet (1975.1.1147)
本文は上記の資料と作品情報を参照した解説です。作品名の日本語表記は説明用の訳です。年代・帰属の「頃」「恐らく」は所蔵館の記載に従います。図版は同館がPublic Domainとして公開する画像を使用しています。