18世紀のグラス〜時代・国別の流行と特徴〜
18世紀のグラスにはそれぞれの地域や年代によって一定の特徴があります。もともとはヴェネチアングラスの流行があり、ファソン・ド・ヴェニスというヴェネチア風のグラスが各地で作られました。しかし、イギリスの鉛ガラスやボヘミアのカリ・ガラスやカット技術などによりガラスの勢力図は大きく変化しました。そして各々の地域でそれぞれに発展をしていきました。ここではファソン・ド・ヴェニス以降のイギリスを中心にドイツ、ボヘミアなど当時のガラス工芸の主流地域をご紹介します。
※ここでは18世紀のグラスの特徴を紹介しますが、19世紀以降も同様の形状にてリバイバルされた品が制作されているものもあるため、18世紀と判断するにはまた様々な要素を検討する必要があります。
フットについてミニ・コラムのフットの特徴にてご紹介しています。
イギリス
イギリスでは通常ステムと用途によって種類は分類される。ここでは代表的なワイングラスを中心にステムの種類によって分類する。
・バラスター / BALUSTER

バラスターとは手すり子のことで、手すり子のような形状のステムのグラスである。つまりは、ノップ(Knop)と呼ばれるコブが多くついたステムである。初期のころはへビーバラスターと呼ばれ、より大きく重量感がある。また、ティアーと呼ばれる装飾気泡がよく使用されている。イギリスでの人気も高く、非常に高価なグラスである。1680年〜1720年頃に流行。
この画像はヘビーバラスター。繊細というよりはどっしりとしている。中のティアーが美しい。
・バラスタロイド / BALUSTROID

バラスターをよりステムは長く、より簡素ですっきりした形状。また、バラスターより軽い。ノップも小ぶりで、上部や下部に少しついているだけといった形状も多い。1720年代〜1760年に流行。
バラスターに比べるとより繊細さがあるのがわかる。相場はヘビーバラスターの半値以下であり、まったく別物なので注意が必要。
・ライトバラスター / LIGHT BALUSTER
バラスターよりも軽量化し、すっきりとしたデザインのステムのグラス。バラスタロイドと重なる部分があるが、主にニューキャッスルライトバラスターを指して使われることが多い。
・ぺデスタル / PEDEARAL

1714年にイギリスに伝わった、ボヘミア発祥の形状。型を使用した吹きガラスによって作られる。初期のころは4面の平面で、6面や8面のちに様々な形状が作られる。1710年代〜1760年代に流行。
特にシャンパングラスやスイートミートグラスなどでよく見かける。
・プレーン / PLAIN
特に特徴のないまっすぐなステムである。内側が空洞のホロウステムとなっているのもある。シンプルなため、見分けるためにはフットの形状やガラスの質などを見る必要がある。1730年〜1750年頃に流行。
・エアーツイスト / AIR TWIST

ティアー(装飾気泡)が発展してできた。1745年に重量によって税金がかけられるようになったため、空気をいれることで軽くした。空気の柱をスクリュー状に複数埋め込まれている。また、このエアーツイストにみせかけた、表面に溝を掘ったインサイストステムグラスも作られるようになった。1745年〜1765年ごろに主に流行。
【偽物・リバイバル品に注意】

比較的わかりやすいリバイバル品。 エアーには繊細さがなく、形も悪い。18世紀のグラスはボウルよりフットの直径のほうが大きいのが基本である。また、このエングレーヴィングはジャコバイト様式を模したものであるが、彫の感じは全く異なる。1900年以降の作品。
・オペークツイスト / OPAQUE TWIST

空気ではなく、代わりに色ガラスを入れたツイストステムのグラス。1745年に重量によって税金がかけられるようになったが、不透明なガラスは対象外であったため、このようなグラスがうまれた。主には白色だが、色が付いたものもある。エアーツイストとオぺークツイストを組み合わせたミックスド・ツイストステムもある。1750年〜1780年頃に流行。
これは二種の白色ガラスで製造されたオペークツイストで、DSOT(Double series opaque twist)と呼ばれる。
【偽物・リバイバル品に注意】

・本物の18世紀のオペークツイストは渦巻きの手前を見たときに、右上から左下の方向に巻かれている。この画像のように左上から右下に巻かれているのは18世紀ではない。
・ファセッティド / FACETED

ファセットカットを施した美しいステムが特徴。それまでの流行であったティアーと呼ばれる装飾気泡などは見られなくなる。ファセットカットはひし形、六角形、八角形が見られる。1770年〜1800年に主に流行。ボヘミアへも伝わった。
ドイツ・ボヘミア(神聖ローマ帝国)
・ザクセン

ベル型のボウルにカットが入っている。ザクセンではベル型のボウルのグラスが良く製造された。ノップにもカットの装飾があり、内部にはティアーとなっている。ボウル部分下部からフットにいたるまでのこのカットの仕方はザクセンの特徴である。カットがないものもある。1720年〜1750年頃に流行。
・ヘッセン / HESSEN

バケット型のボウルにティアーの入った特徴的なノップ、ドームド&フォールディドの大きなフットが特徴。同種のタイプは各地でみられる。
・ローエンシュタイン / Lauenstein

ローエンシュタインのゴブレット。ティアー(装飾気泡)が特徴的。このタイプはテューリゲンでも作られている。
・北ドイツ
・シレジア(現ポーランド)

シレジアの代表的な形状のデザイン。細かで美しいカットが特徴。ボヘミアでもこの形状はみられる。ロブマイヤーがこのデザインをモチーフにしたデザインを多く製造している。シレジアでは高度のエングレーヴィング技術が発達し、多くの名品が生まれた。しかし、1740年のシレジア戦争によりその技術は失われてしまった。
・ボヘミア

ボヘミア1700年代初頭の定番のバロック様式のデザイン。ボウル部分に大振りで規則的に並べられたカットが特徴的。ステムもこのボヘミアも特徴的なデザイン。ノップにカットが入っている。1720年〜1740年頃に流行。
フランス
18世紀フランスにおいても非常にガラス産業が発展しており、多くのガラスが製造された。産地としてはノルマディーが有名で、バカラができたロレーヌなど各地で生産された。1750年代から1790年代はファソン・ド・ボエムというボヘミア風のガラスが流行した。またイギリスのガラスの影響も受けツイストガラスも生産された。イギリス風ガラスはノルマンディーで盛んであり、ドイツ風のグラスはロレーヌ地方で盛んであった。
オランダ
オランダでは様々なスタイルのグラスが製造された。主にはイギリスのグラスの影響を受けたデザインと、ドイツにみれらるようなスタイルのデザインが多い。オランダではダイヤモンド・ポイント彫りによる装飾が流行した。
18世紀ではないグラス
19世紀以降、18世紀に似せたグラスはよく製造された。特に歴史主義の流行したボヘミア地方や20世紀末から19世紀初頭にかけてのイギリスはよくリバイバル品が製造されている。特にボヘミアは17世紀以前の古い製品の復刻が良く製造された。
ガラスをみるときは、ガラス全体の形状、特にフットとステム部分、ガラスの質、エングレーヴィングの彫り方、デザインなどを見て総合的に判断される。ポンテ跡ももちろん重要ではあるが、19世紀以降もわざと残している例は珍しくない。
参考文献
『世界ガラス美術全集 2ヨーロッパ』由水常雄編(1992)
『英国グラスの開花 チャールズII世からジョージVI世まで』村田育代(2005)
『VERRE D'USAGE ET DE PRESTIGE FRANCE 1500-1800』Jacqueline Bellanger(1988)
『Eihteenth Century English DRINKING GLASSES An Illustrated Guide』L.M.Bickerton(1986)
『GLAS 1500-HEUTE』KOVACHEK(1993)
『Form-und Scherzlaser Geschliffence und geschnittene Glaser des 17./18. Jahrhunderts』(1992)
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