アール・ヌーヴォー期に活躍したガラス作家のご紹介
アール・ヌーボー Art Nouveau
19世紀末から20世紀初頭にかけてヨーロッパやアメリカで起きた芸術運動。フランス語で「新しい(Nouveau)芸術(Art)」を意味する(フランス語では"Art"の"t"は発音しないため「アール」となる)。建築や家具、ガラスや陶磁器、広告に至るまで多大な影響を及ぼした。植物などの自然をモチーフにしたり、曲線美を活かしたデザインが特徴であり、美術史上に残る大きな運動であった。「アール・ヌーボー」の名は、1895年パリの美術商サミュエル・ビングの店の名前で使用されたのが由来である。ビングは1900年のパリ万博にも出店(ジョルジュ・ド・フールがデザイン)し、「アール・ヌーボー」は世界の人々に知れ渡るようになった。
※被せガラスについてはミニコラムの被せガラス〜銘の一覧〜にも情報を記載しています。
エミール・ガレ / Emile Galle(フランス)
アール・ヌーヴォーの巨匠ともいわれるフランスの工芸家である。1846年に生まれる。父であるシャルル・ガレが陶器やガラスなどの工場を経営しており、そこでデザインなどを学ぶ。そのデザインの多くは植物や生物など自然を主題としており、死生観を表現するなど芸術性は非常に高い。1874年には自身で陶器やガラスなどの製作を始める。陶器においてはシャルル・ガレの代よりサン=クレマン製陶所にて生産していたが、1880年前後よりラオン=レタップ製陶所にて生産するようになる。ガラス製品においては1874年に自身のガラス工房が完成、1885年にはマイゼンタールと契約し制作を進め、様々な技法を開発、ガラスの表現方法を大幅に広げた。作家の詩等をガラスに刻み「もの言うガラス」は人気を博した。さらに1884年〜1886年に家具工房を設立し、製作を始めた。マルケットリー(寄木細工)を得意とした。また、ガレは日本人の高島北海と交流があり、ジャポニズムの影響も受けている。1889年のパリ万博ではガラス部門グランプリ、陶器部門金賞、家具部門で銀賞を受賞し、世界的に高い評価を得る。1904年に死去。ガレの死後も1936年まで工房は続いた。
1874年〜1904年 ガレ自身による。
1904年〜1914年 ガレの死後、夫人のアンリエット・ガレやガレの友人プルーヴェによる。
1918年〜1936年 ガレの娘婿ぺルトリーゼによる(1931年に縮小)。
※よくある勘違いとして、比較的安価なガレに対して「本人が作ったわけではない工房物」という方がいらっしゃますが、ガレ存命時でもガレ自身が製造したガラスはなく、工房で(職人が)制作したものです(ガレは産業芸術家である)。ガレの作品の価値は使われている技術、希少性、特殊性、デザインなどで決められる。また、ガレ存命時でもガレの意向により一般向けの廉価な製品も多く作られていた。
ガレのマーク
ガレのマークは非常に多様であり、それだけで年代等を絞るのは困難である。

※ガレのマークの中には星(スター)が付いたものがある。これはガレの死後、1904年〜1906年の間に使われたといわれてきたが、1905年〜1908年に使われていた。ガレの作品の中でも年代が特定できるマークである。中には星を削り取ってわからなくしてしまっているものもある(ガレ工房で当時取ったものもある)。
ガレの偽物・リプロダクション品のマーク
ガレの偽物は非常に多く、ガレ存命当時から偽物が出回っていた。稚拙なものから精巧なものまで多様にあるため注意が必要である。特にルーマニアで多く作られ、自称「ガレ工房」とうたって販売されているが、すべて偽物(複製品)。
※当店ではルーマニア製等の贋作は一切お取り扱いしておりません。
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ルーマニアの工房「Galle Tip」(ガレ風) "Tip"の文字を削り取って分からなくしている場合もある。 |
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リプロダクション品や中国製の偽物 |
※ナンシー派(エコール・ド・ナンシー)
アール・ヌーボー期、ナンシーに集まった芸術家、工芸家による一派。1901年に「ナンシー派」が設立。会長はエミール・ガレ、副会長はアントナン・ドーム。一派にはガレやドーム兄弟の他にもアマルリック・ワルター、ルイ・マジョレル、ヴジェーヌ・ヴァランなどが挙げられる。
ポール・ニコラ / Paul Nicolas(フランス)
ナンシー美術学校を卒業したのち1893年よりガレの下で働く。デザインや造形、エナメル装飾技術などを学び、ガレにとって最も重要な人物の一人となっていった。ガレの死後も工房で働いたが、1914年第一次世界大戦に兵隊として召集された。1919年、ガレの下で働いていた技術者とともにアトリエを設立。1923年にサン・ルイと契約、ガラスの提供を受け制作をした。このころの作品には"D'argental"(銀の谷の意)という銘を使用した。1939年第二次世界大戦が勃発すると、サン・ルイはドイツ占領下におかれ製造できなくなった。しかし第二次世界大戦も終戦へと向かう頃、今度はドームと契約し、ガラスの提供を受けた。1952年死去。ガレが最も信頼した人物の一人であるだけに、技術の高い被せガラスを制作した。1937年パリ万博で金賞を受賞するなど様々な賞を受賞している。
"D'argental"のサイン
ドーム兄弟 / Daum Nancy
アールヌーヴォーのガラス工芸において、エミール・ガレとともに光彩を放ったのがドーム兄弟である。兄のオーギュスト・ドームと弟のアントナン・ドームは1878年に父とともにガラス工場を開いた。ガレなどの工芸家とも親交があり、1889年のパリ万博ではガレに学んだ被せガラスに新技法を加え人気を得て、1900年のパリ万博ではグランプリを獲得し、ガレと並ぶほほどの名声を得た。ガレ同様植物を主題にしたものや、ドーム兄弟が好んだ風景を主題としたものが多い。エナメル彩色や色ガラスの粉を用いたヴィトリフィカシオンなどドーム独特の美しさがある。オーギュストは1909年、アントナンは1930年にそれぞれ死去するが、ドームの工房は現在も続いている。
ドームのマーク
※ロレーヌ十字
「キ」のマークはフランス北東部のロレーヌ(Lorraine)を象徴する紋章である。ロレーヌ十字、エルサレム十字などと言われている。キリスト教のシンボルである十字架に一本棒が加えられている。この横棒は「ユダヤ人の王イエス」と記された罪標を示している。ドームやガレを始め、多くのガラス工芸家はこのロレーヌのナンシーに工房を構えた。自由のシンボルであり、ガレやドームの作品にはこのロレーヌ文をデザインしたものも多い。
ドームの偽物・リプロダクション品のマーク
ダモン(Damon)
ダモン(Damon)はパリにあったガラスの小売商である。ルイ・ダモンが1890年代に創業する。ドーム兄弟の認可を得た正規販売店であり、ドームの作品をDamon銘で販売をしていた(サインがないものも多い)。サインは金彩で"Damon et Delente 20 bd Malesherbes Paris"。ダモンは1947年に死去。
ルグラ(モンジョワ,サン・ドニ)/Legras(Montjoye,Saint-Denis)(フランス)
フランソワ=テオドール・ルグラ(François-Théodore Legras)による工房。1839年に生まれたルグラは20歳のときにヴォージュにあるClaireyというガラス工場に入り、その後パリの小さな工房に移る。そして1864年サン・ドニガラス工場(La verrerie de la Plaine Saint-Denis)に雇われ、2年後には工場長となる。1873年には甥のシャルル・ルグラ(Charle),1878年には同じく甥のテオドール(Théodore)が職人として加わる。シャルルは1868年にパリ万博で金賞を受賞している。1883年社名をLegras&Cieとする。ただ名称はサン・ドニを引き継ぎVerrerie et Cristallerie de Saint-Denisとされた。実際にルグラ(Legras&Cie)のサインが使われるようになったのは1894年からである。ルグラは1888年にバルセロナ万博金賞、1889年と1900年のパリ万博でグランプリ、その後の万博では審査員を務めるなど評価は非常に高かった。そして1897年、パンタン(Pantin)のキャトル・シュマン工房と合併する(サンドニ・パンタンガラス工房、Societe Anonyme des verreries de Saint-Denis et Pantin reunies)。1916年,ルグラ死去。1922年にはシャルルも死去。1924年にサンドニ・パンタンガラス工房がSouchon-Neuveselに買収される。残されたテオドールはその後も働いた。
作風としてはガレやドームのように優れた装飾ガラスの制作もしたが、一般向けのガラスを主に制作するなど非常に幅広く制作した。第一次世界大戦時には軍のための製品を製造した。独特のエナメル技術や、アール・ヌーボーを取り入れたデザインは人気が高い。モンジョワ(Montjoye)のサインもルグラの製品である。
F.T.ルグラは1889年にシュヴァリエ章、1906年にはフランス最高勲章であるレジオン・ドヌール勲章を授与されている。工房も1000人を超える職人がいるなど、当時のフランスガラス界において相当の勢いを持った工房であったことが推察される。
★オーギュスト・ハイリゲンシュタイン(Auguste Heiligenstein、1891〜1976)
アール・デコの代表的デザイナーであり、バカラやマルセル・グッピーとも仕事をしたオーギュスト・ハイリゲンシュタインはもともとルグラで働いていたデザイナーである。1902年よりルグラの工房にて見習いとして修業をした。1908年よりバカラにて働いたのち、ルアール(Rouard)にてマルセル・グッピーとともに働く。そして1926年から1931年までルグラの装飾のプロデューサーとしてそのデザインのほとんどを手掛け、アール・ヌーヴォーを得意としていたルグラにアール・デコのデザインをもたらした。
ルグラ(Legras)のサイン。 | |
モンジョワ(Montjoye)のマーク。 通常は付けられないことのほうがほとんどである。 |
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サン・ドニ(Saint-Denis)のマーク。こちらも付けられないことが多い。 |
ヨハン・レッツ・ヴィトヴェ/Loetz(オーストリア)
アール・ヌーヴォーのボヘミアのガラスの歴史を語る上では欠くことのできないほど重要な工房がレッツ(ロエツ)の工房である。ヤン・クシュティテル・アイズナーによって1836年に設立された。ヨハン・レッツ自身は1844年に他界し、未亡人となったスザナ・レッツ=ゲルストナーにより1852年より経営された。アール・ヌーヴォー期にはアメリカのL.C.ティファニーの影響を受け玉虫色に光る虹彩ガラスを制作、独自に発展させ世界的に名声を博した。サインは書かれないことが多い。1920年代にはフランスへ参入のため、美術商エトランのもと"Richard"銘で被せガラスなどを製造した。
レッツに影響を与えたイリディッセントガラスを制作したのが、ティファニー創業者の息子であるルイス・コンフォート・ティファニーである。ファブリル・ガラス(L.C.ティファニーが開発し特許を取得)やステンドガラスで名作を残しており、アメリカ至上最高の装飾芸術家ともいわれるほどである。
1848年に生まれる。1878年に工房を設立、色ガラス(虹色)を開発しファブリルと名付けられる。1892年にはティファニースタジオを設立。ガラスだけでなくブロンズやシルバーなどの装飾品も作られている。1902年に父が死去し、ティファニーカンパニーを受け継ぐ。1933年死去。
ファブリルガラスに付けられた1912年のマーク。年代によってアルファベットのマークが付けられた。 アメリカではL.C.ティファニーの作品の偽物が非常に多いので注意が必要 |
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ティファニースタジオ製によるブロンズ製品に付けられたマーク。ティファニースタジオのブロンズ製品はガラスと組み合わせたデザインのものも多く、人気を博した。 |
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ここで紹介したのはごく一部で、実際にはここで紹介した以外にも多くのマークが使われております。また、マークの年代には諸説あるものもあり、あくまでも参考としてご覧ください。マークについてご質問等あれば、「お問い合わせ」よりご連絡ください。
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