フランス磁器ブランドとマーク
フランスの磁器ブランドとそのマークをご紹介
シャンティイ / Chantilly
東洋磁器に熱中していたルイ4世アンリ・ド・ブルボン=コンデによって設立。サン・クルー窯で磁器を勉強したシケール・シルー(Cicaire Cirou)を招聘し、磁器製造の勅許を与え、軟質磁器の製造を始めた。極秘の軟質磁器の手法により、日本や中国の磁器、特に濁手の柿右衛門様式の精巧な写しを製造した。この品質は非常に高く、マイセンを凌ぐほどで非常に高い評価を得ていた。初期の頃から働いていたデュボワ兄弟(Robert & Gilles Dubois)はこの極秘の製法を盗み出し、王室主導の下ヴァンセンヌ窯が設立した(のちのセーヴル)。ヴァンセンヌ窯が発展すると逆にその技術者を取り入れ、ロココのデザインなどを制作した。その後はシンプルな染付など簡素なデザインとなっていった。1792年、英国人のクリストファー・ポッター(Christopher Potter)に譲渡した。
セーヴル(セーブル) / Sevres
1738年、デュボワ兄弟によりヴァンサンヌ窯が開かれる。これがセーヴル窯の前身であり、1756年にポンパドール夫人の庇護の下、セーヴルへと移転し、その後王立セーヴル製陶所となる。もともとはマイセンを目指していたが、一流の技術者たちにより瞬く間にヨーロッパでも随一の磁器ブランドとなった。セーヴルブルーと呼ばれる美しい色合いは他の追随を許さないほど美しいものである。18世紀のころは軟質磁器がほとんどであったが、19世紀に入ると硬質磁器へと移行された。現在でも国家のために優れた作品を製造している。
セーヴルは大変高価なものであり、そのため偽物も多く造られてきた。出来の悪いものが多いが、中にはかなり優れた偽物もある。また、セーヴル自体が多種多様なマークを使用していたため、真贋の判断はプロでもかなり難しいものである。18世紀のセーヴルと書かれたものをよく見かけるがまず偽物である。

焼成年度が1880年、装飾年度が1881年のマーク。焼成と装飾は全く別で行われる。カップ&ソーサーの場合、カップとソーサーで焼成年度が異なる場合もあるが、装飾年度は一緒が基本である。セーヴルは素地だけや金彩のみの単純な装飾だけで出回るものもあるので、装飾だけがオリジナルではないものも多い。
セーヴル初期の年代別のサイン
この時代の本物のセーヴルが日本で出回ることはまずない。見かけて出来が良くてもまず偽物と疑ってかかるべきである。
【セーヴルの贋作】
・天使のデザイン

典型的なセーヴルの贋作。1844年〜1847年のマークがたいてい押されている(1844と1866が多い)。よく見ると絵は雑であり、色も悪い。フランス国外、特にアメリカで多く流通している。
セーヴルの贋作の中には非常に豪華な装飾で出来が良いものも多く、現代では、それらはセーヴルスタイル(セーヴル風)として一定の評価は得られている。本物のセーヴルを見分けるにはとにかく博物館で本物をみることに限る。また古い上手の品であれば出自がしっかりしていることがほとんどである。
パリ窯 / Old Paris
18世紀からセーヴルの影響を受け、多くの工房ができた。パリ窯とは特定の窯の名前ではなく、パリやその近辺にあった工房をまとめてパリ窯と呼ばれている。というのも、古いパリ窯の作品はほぼ窯印がないため、まとめてパリ窯と呼ばれるようになった。ただし、ナストやダゴティのように古いパリ窯は非常に高い評価を得ている窯もいくつかあり、一概にパリ窯とまとめる傾向はあまりよくないといえる。出来の良し悪しは様々で、セーヴル同等以上と評価を受ける窯もあり高値で取引される一方、セーヴルの偽物も多く作られた事実もある。
・ナスト / Nast
パリの中でも最重要工房の一つ。1784年頃、Jean Hermann Nastによって開窯。1835年まで続く。
・コント・ダルトワ / Comte d'Artois
1772年、アノン(Pierre Antoine Hannong)により開業。1784年に色絵の生産を許可された窯の1つ。1779年、ルイ16世の弟でのちシャルル10世になるアルトワ伯に庇護されたため「アルトワ伯工房(Comte d'Artois)」と称した。
・クィーン / Queen
ティル通り(Rue Thiroux)にあった工房。1776年、アンドレ・アリー・レベフ(Andre Marie Lebeuf)により開窯。1784年に色絵の生産を許可された窯の1つ。マリー・アントワネットの庇護を受け「女王の工房(Queen)」と称した。
・ディール / Dihl(デュク・ダングレーム / Duc d'Angouleme)
ボンディ通り(Rue de Bondy)にあった工房。1781年にクリストフ・ディール(Christophe Dihl)によって開窯。1784年に色絵の生産を許可された窯の1つ。アングレーム公爵の庇護を受け「アングレーム公爵の工房(Duc d'Angouleme)」と称した。
・デュク・ドルレアン / Duc d'Orlean
(Rue des Boules、Rue Amelot)にあった工房。ルイ・オノレ・デラメール(Louis Honore Delamarre)
・ダルト兄弟 / Darte Freres
80人〜100人ほどの従業員がおり、「皇帝国王陛下と皇太后陛下の製陶所」と称した。
・シュルシェール / Schoelcher
マルク・シュルシェールが設立。マルクは1766年、農夫の息子として生まれる。パリの有力工房ルシンガー&ロクレの工房で働き、1798年にフォブール=サン=ドニ通りの磁器工房を買収した。1806年に妻のヴィクトワールに財産分与を求められ、1810年で製造中止、その後1823年に工房は売却された。別にあった店舗での販売と絵付け事業は続けられ、博覧会で賞を受賞するなど活躍した。1828年に息子のヴィクトールが加わり、ヴィクトルは新たな販路拡大のためメキシコとキューバ、アメリへカ渡った。そこで目にした奴隷制度を目の当たりにし、奴隷制度廃止運動をするようになった。1832年、マルクは死去、1834年に事業は廃止され、ヴィクトルは政治活動に力を入れた。ヴィクトルはその後、フランス植民地における奴隷制度廃止運動を尽力し、1848年の奴隷制廃止政令の制定に至った。
・ダゴティ / Dagoty
当時贈答品として人気があった工房。1804年に「皇后陛下の磁器工房」の称した。
・エドゥアール・オノレ / Edouard Honore
1785年設立のオノレ(Honore)窯で、フランソワ・モリス・オノレ(Francois Mourice Honore)の息子として1812年に経営参画する。1816年からナポレオンも購入しジョゼフィーヌがかつて庇護していたダコティ窯のピエール=ルイ・ダゴティ(Pierre Louis Dagoty)と資本提携をする。1820年に資本提携を解消したのちも手腕を発揮し、工房を発展させた。1855年死去、工場は息子が引き継いだ。
・ロクレ / Locre
・クリニャンクール / Clignancourt
1767年頃、ピエール・ドリュエルにより開窯。1784年に色絵の生産を許可された窯の1つ。プロヴァンス伯(ルイ16世の弟、のちルイ18世)の庇護を受け「王弟殿下の工房」と称した。1799年廃窯。
・アンドレ / Andre
1810年頃、モーリス・アンドレ(Maurice Andre)による絵付け工房。
・フイエ (ボワイエ)/ Feuillet (Boyer)
ジャン・ピエール・フイエ(Jean Pierre Feuillet、1777年〜1840年)によってパリのラ・ペ通りに設立(1810年代)。ブルボン公ルイ6世アンリの庇護を受け、パリを代表する絵付け工房となった。その技術の高さから各国の貴族からの注文を受けていた。1834年に同じ絵付け業者のボワイエ(Boyer)と提携する。窯印にも両名の名が使用され、その後ボワイエとして引き継がれる(恐らくフイエの死後)。19世紀後半は機械化の流れに押され、徐々にその品質が落ちていき様々な業者と提携、最終的にPaul Blot et Hebertとなった。またフイエは甥が別工房で活動をしており、こちらはセーヴルスタイルのを制作していた(〜1846年)。
・ジャコブ・プティ / Jacob Petit
1796年、パリで生まれる。本名はジャコブ・マルドシェ(Jacob Mardoch?・e)。ヨーロッパを旅し、セーヴルで働き磁器製造を学ぶ。その後1830年頃(1833年とも)にフォンテーヌブロー窯を買収し、製造を始める。また、ボンディ通りに工房も持っていた。同時期の1830年に装飾図案文様集を出版するなど、デザインに非常に精通していた。立体的で豪華な装飾性に優れた作品を生み出し、特に花瓶や水差し、人形など装飾品を得意とし、当時のフランス磁器界に新しい風を吹き込み、人気を博した。1868年死去。プティの作品はルーヴル美術館など各国の美術館に所蔵されている。
・シャペル(シャペル=メイヤール) / Chapelle(Chapelle-Maillard)
1821年頃に工房を設立しChapelle Filsとして活動していたシャペル(Chapelle)と、1827年から陶磁器やガラスを販売していたメイヤール夫人(Madame Maillard)が1840年頃に提携したパリの工房。シャペルは1830年代にジャコブ・プティ(Jacob Petit)の協力を得て博覧会で高い評価を得ていた工房で、25人〜30人ほどの技術者を雇っていた。白磁の販売もしていたが、工房は絵付け専門の工房として活動していたとされている。1844年のパリ産業博覧会で賞を受賞するなどし、1850年まで協力関係は続いた(1850年代も続いたとの説もあり)。
など
・リウエ / Rihouet
パリにあった絵付け工房であり、陶磁器やガラスなど販売した小売店でもある。ルイ・マリー・フランソワ・リウレ(Louis Marie Francois Rihouet)がアルブルセック通りにて1818年に設立。リウレもともとオルレアン公に仕えていた一族であり、早くからオルレアン公ルイ・フィリップ(1830年よりフランス国王)に陶磁器を収めており、1824年には王室へ納める陶器メーカーとして任命された。1830年、ラペ通りに移転、ルロゼイ(Lerosey)とも提携した。
・アレ(ハレ)/ Halley
フランス製の磁器で一般的に一番よく聞く名前がおそらくこのリモージュである。18世紀にパリの磁器工房などがリモージュに伝わり、磁器を製造するようになった。初期のころはセーヴルへも白磁の提供をしていた。その後、装飾も手掛け、多くの工房が乱立するようになった。初期のころのリモージュに窯印はないが、19世紀中盤ごろからはそれぞれの工房の窯印がつけられていることが多い。シンプルなものから独特のものまで、多種多様の製品が造られ20世紀以降は安価なものがほとんどであるが、エナメル彩やパテシュールパテのような特徴的な技術に特化したものもある。現代ではフランスのお土産品としてコバルトに金彩のものが有名である。
・LAZEYRAS,ROSENFELD,LEHMAN

1920年頃
・Jean Pouyat(1842〜1914)

1883年〜1914年のマーク
・LA PORCELAINE LIMOUSINE

1905頃〜1930年代
装飾のないものには赤のマークはつかない。
・Charles Field Haviland

1858頃〜1881)
・William Guerin(1887年〜)

1891年〜
ここに載せたのは一部で、それぞれの工房で他のマークも使用している。また、紹介した以外にも多くの工房がある。
フランスでは日常品として一般的にはファイアンス(錫釉陶器)が用いられていた。
ヌヴェール
ムスティエ
ジアン
リュネヴィル
ルーアン
ここで紹介したのはごく一部で、実際にはここで紹介した以外にも多くのマークが使われております。また、マークの年代には諸説あるものもあり、あくまでも参考としてご覧ください。マークについてご質問等あれば、「お問い合わせ」よりご連絡ください。
参考文献
『Vincennes and Sevres Porcelain』(Adrian Sassoon/J Paul Getty Museum Pubns/1992)
『Collectors Encyclopedia of Limoges Porcelain 』(Mary Frank Gaston/Collector Books/2000)
『ヨーロッパ アンティーク・カップ銘鑑』(和田泰志/実業之日本社/1996)
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