1814年、ウィーン会議がシェーンブルン宮殿で開かれた。ナポレオン戦争や1806年の神聖ローマ帝国崩壊などにより崩れたヨーロッパ秩序を正統主義を基に再建を目指した。その結果、翌1815年、ウィーン体制が発足、その結果ドイツ連邦の成立や、フランスの復古王政、1830年のベルギー王国の誕生などへとつながった。この体制はヨーロッパの協調が理念としてあり、各国もそれに積極的であったため、ヨーロッパに安定をもたらしたが1848年革命やクリミア戦争で崩壊した。この時代はイギリスのリージェンシー、フランスのレストラシオン、ドイツのビーダーマイヤー期にあたる。
ビーダーマイヤー
この時代、ドイツやオーストリアを中心に流行したのがビーダーマイヤー。中流階級文化の時代であり、日常的でありながら、優美さを残していおり、簡素で洗練されたスタイルが流行した。ビーダーマイヤーという言葉は様々な事物に使用されおり、ドイツの磁器やボヘミアンガラスなどにもその影響はみられる。家具ではフルーツウッドのど明るめの木をメインにエボニーなど黒色の木を合わせることが多かった。イギリスではリージェンシー様式に近い。
出典:メトロポリタン美術館
オーストリア製。ウォルナットをメインにエボニーやブロンズを使用したビーダーマイヤー様式の家具。華美さは控えめながら、非常に洗練されたデザイン。
ボヘミアのガラス
ビーダーマイヤー期のボヘミアではガラス表現の幅が広がり、特に色彩の表現が発展した。南ボヘミアのジリ・ブクオイ伯爵は黒や赤の玉滴石ガラスを導入し、独占的に製造していたが、すぐにほかの工房にも広まった。また、北ボヘミアの発明家フリードリヒ・エガーマンは準貴石を表現したリチリアンを発明した。エガーマンは1816年に銀ステイニングや銅ステイニングを開発した(ステイニングは加熱した状態で、金属化合物の溶剤とガラスとの間に化学反応を起こし着色させる)。また、色だけでなく、エングレーヴィング技術も健在で、ドミニク・ビーマンやアントン・スィムなど優れたエングレーヴァーが存在した。ヨーロッパでもボヘミアンガラスの評価は高く、1845年にはサン・ルイがバカラなど他工房のガラス職人らとともにボヘミアへいき、様々な手法を学び、以後フランスでもボヘミアスタイルのガラスが製造されるようになった。
当店所蔵
当時のボヘミアではビーズ細工も発達した。こちらはビーダーマイヤー期の典型的な形状のビーカーにビーズが巻き付けられたもの。ビーズだけでなくカットスチールも使用されている。
・ハラフ(ハラホフ)など
磁器
ドイツなどではビーダーマイヤー様式の磁器も多く製造された。旧来の帝政様式などの形状を引き継ぎつつ、当時の様式への適用した装飾がされた。また、フランス、ドイツ、オーストリアなどでは絵付けのみを専門とする工房が発達し、焼成と絵付けが別々に行われることも多かった。装飾は写実的な風景や花束など審美的に純粋なものが好まれる一方で、全体を金彩で塗りつぶすなど広範囲を装飾することが流行した。一方、イギリスではそれまでの大陸の影響を受けたデザインではなく、ロココ・リバイバルが流行しイギリス独自のデザインへと向かっていった。
出典:メトロポリタン美術館
全体をシルバー色で装飾されたカップ&ソーサー。帝政様式のデザインを引き継ぎ、古典的な題材である。結婚25周年の銀婚式を記念として製造されたもの。
ベルギー王国
1830年、ネーデルラント連合王国からベルギーが独立した。この頃のフランドル地方ではポワン・ド・ガーズというアランソンレースをモチーフにしたブリュッセルレースが製造されるようになった。1860年代頃に完成し、人気を博した。ガーゼのように薄く繊細なことが特徴で、バラなどの植物をモチーフにした。また、独立する少し前の1826年に、のちにベルギーを代表するクリスタルガラスブランドとなるヴァン・サン・ランベールも設立されるなど、フランスやオランダの要素を取り入れながらベルギー独自の文化が発展していった。
出典:メトロポリタン美術館
ブリュッセルのVerdé, Delisle & Cieによるポワン・ド・ガーズ。
ウィーン体制期のアンティーク
1810年代から1830年代はボヘミアのガラスのように新しい方向性へと向かっていく一方で、フランスでは復古王政により18世紀への回帰的なスタイルも見られた時代である。産業革命も進み、あらゆる分野で機械化という技術的な変化もみられる時期である。結果としてこの後、応用美術は停滞期を迎えることとなる。
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『Biedermeier』(Angus Wilke、1987年)
『ボヘミアンガラス600年の輝き』(武田厚、1994年)
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